大手日系企業に勤める既婚男性のモーニングルーティーン

朝起きる

神奈川県に暮らす38歳の会社員、佐藤健一さん（仮名）は、妻と小学2年生の娘との3人暮らし。都内の企業に勤め、年収は約800万円と安定した生活を送っている。そんな健一さんの一日は、朝6時15分にセットしたスマートフォンのアラームで始まる。ベッドの中でアラーム音を止めると、薄明かりが差し込む寝室でしばらくまどろみ、今日一日の段取りに思いを巡らせる。隣では妻の麻衣さんもゆっくりと目を覚まし始め、寝ぼけまなこの娘が「パパ、おはよう…」と布団の中で小さな声をもらす。健一さんは「おはよう」と優しく声をかけ、家族の存在を感じながら静かにベッドを抜け出した。

身支度を整える

寝室を出た健一さんは、まず洗面所で身支度を整える。鏡の前で顔を洗い、ひんやりした水で眠気を吹き飛ばした後、丁寧にひげを剃る。その間、リビングからは早起きした麻衣さんがつけたテレビのニュース番組の音声がかすかに聞こえてくる​。今日の天気予報や交通情報を耳にしながら、健一さんはネイビーのスーツに袖を通した。クローゼットから取り出したお気に入りのネクタイは、昨年の父の日に娘が選んでくれたものだ。鏡に向かって結び目を整え、「よし」と小さく息をつき気合いを入れる。仕上げに寝ぐせを直し、髪に軽くワックスをなじませると、ビシッとしたビジネスマンの装いが完成した。身だしなみを整え終えた頃、リビングからは味噌汁のいい香りが漂ってきて、健一さんのお腹がぐうと鳴る。

朝食をとる

ダイニングテーブルには麻衣さんが用意した朝食が並んでいる。メニューは炊きたてのご飯に豆腐とわかめの味噌汁、焼き鮭とほうれん草のおひたしという和食の定番だ。加えて娘の好きな卵焼きも色鮮やかに盛り付けられている。健一さんは「いつも朝からありがとう。美味しそうだね」と麻衣さんに笑顔で声をかけ、席に着いた。娘は眠たい目をこすりながらも箸を握りしめ、「いただきます」と家族そろって朝の食卓を囲む。テレビでは天気予報に続いて経済ニュースが流れているが、健一さんはまず味噌汁を一口すすり「ほっとする味だ…」と心の中でつぶやいた。温かい味噌汁が胃に染みわたり、体が目覚めていく。娘が苦手なピーマンの入ったおひたしに渋い顔をすると、健一さんは「ピーマン食べると元気モリモリだぞ」と笑いながら声をかける。麻衣さんもクスッと笑い、「パパも子どもの頃はピーマン嫌いだったんだって」と娘に耳打ちした。和やかな笑い声がダイニングに広がり、少しずつ家族のエンジンがかかっていく。朝食の締めくくりに健一さんは淹れたてのコーヒーを一杯飲み干し、「ごちそうさま、美味しかった」と感謝を伝えた。

妻・子どもとの時間

朝食を終えた後の短い時間は、健一さんにとって貴重な家族とのふれあいタイムだ。麻衣さんが食器を下げて台所で片付けを始める横で、健一さんは娘と今日の予定について話をする。「今日は学校で何するの？」と尋ねると、娘は「今日はね、体育でプールがあるの！」と嬉しそうに答えた。「そっか、いっぱい泳いでおいで。タオル忘れるなよ」と健一さんはにっこり頷きながら声を掛け、娘のランドセルの中身を一緒に確認する。宿題帳や連絡帳をチェックし、持ち物に漏れがないかを見守るのも父親の日課だ。リビングの時計が7時20分を指し始めると、そろそろ出発の時刻。健一さんは自分のブリーフケースにノートパソコンや書類が入っているか最終確認し、玄関先に用意してあったゴミ袋を手に取った（今日は可燃ゴミの収集日だ）。麻衣さんは「はい、これお弁当」と健一さんに包みを手渡す。中身は朝のおかずを活用した愛妻弁当で、健一さんは受け取りながら「いつもありがとう。助かるよ」と感謝の言葉を伝えた。娘はすでにランドセルを背負い靴を履いてスタンバイしている。「パパ、行こ！」と元気よく声を上げる娘に、麻衣さんも「気をつけてね」と声を添える。健一さんは玄関で革靴を履きながら「じゃあ行ってきます」と家族に宣言した。

出勤（神奈川から東京までの通勤）

玄関の扉を開けると、朝の清々しい空気が健一さんたちを迎えた。家の前で「行ってらっしゃい！」と手を振る麻衣さんに軽く会釈し、健一さんと娘は並んで歩き出す。娘の通学班の集合場所が家から少し先の角にあるため、そこまで一緒に向かうのが日課だ。夏の陽射しが照り始めた道を歩きながら、健一さんは「今日は暑くなりそうだなぁ」とスーツの袖口で額の汗をぬぐう。娘は元気いっぱいで、「パパ、あっちの雲がお魚みたいだよ！」とはしゃぎ、健一さんも「本当だ、面白い形だな」と空を見上げて笑った。集合場所に着くと、近所の子ども達が待っており、娘は「パパ、バイバイ！」と手を振ってその輪に駆けていった。健一さんも「行ってらっしゃい、気をつけてな」と声をかけて見送る。娘の姿が見えなくなると、彼はふと表情を引き締め、今度は自分の職場へ向かうスイッチを入れた。

最寄りの駅まで歩いて10分ほど。住宅街を抜け、大通りに出ると他のスーツ姿の会社員たちが駅へと急ぐ様子が目に入る。駅前に差しかかった健一さんは、ゴミ袋を地域の指定集積所に置いてから改札へ急いだ。通勤ラッシュがピークを迎える時間帯、神奈川から東京方面行きの電車はすでに多くの人で混み合っている。7時40分発の快速電車に滑り込み、健一さんはドア付近に何とか体を収めた。「今日も満員だな…」と心の中で苦笑しつつ、吊革につかまって息を整える。電車が動き出すと、周囲はスーツ姿の乗客ばかりで、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。新聞を広げる中高年、スマートフォンでニュースやSNSをチェックする若手社員、居眠りをする人もちらほらといる。健一さんはポケットから自分のスマホを取り出し、ニュースアプリで国内外のニュース記事に目を通し始めた。経済欄の見出しに目を留め、「物価上昇か…生活も気を引き締めないとな」と小さくため息をつく。もっとも、幸いにも800万円の収入で生活は安定しているものの、将来の教育資金や住宅ローンのことを考えると油断はできない。​

そんなことを考えながら記事を読み終えるころ、電車は都内の最寄駅に到着した。乗客が一斉に降りる流れに乗ってホームへ降り立ち、健一さんは少し肩の凝りをほぐすように首を回した。東京のオフィス街の朝はせわしなく、人々の歩調も早い。改札を出るとき、駅員に「おはようございます」と声をかけられ、健一さんも軽く会釈しながら駅を後にする。会社までの数分の道すがら、近くのコンビニの前を通るとコーヒーの香ばしい匂いが漂ってきた。ふと足を止めかけたが、今朝は自宅でコーヒーを飲んだことを思い出し、そのまま会社のビルへと足を向ける。

出社後の仕事準備

健一さんがオフィスに着く頃には、時刻は8時50分。東京のビル街にある勤務先のオフィスビルのセキュリティゲートを社員証で通過し、エレベーターに乗り込む。同じビルで働く他社の社員たちと肩を並べながら、自分の勤務フロアに到着すると「今日も一日頑張ろう」と心の中で呟いた。自席に着き周囲に「おはようございます」と挨拶を交わすと、オフィスの空調の涼しさにホッとする。パソコンの電源を入れて立ち上がるのを待つ間に、デスクの引き出しから会社用のマグカップを取り出した。給湯室で淹れたての熱いお茶を注ぎ、デスクに戻ると、まずはその一口で一息つく。デスクの片隅には家族で撮った写真が飾られており、健一さんは微笑む妻と娘の姿に目をやった。「よし」と静かに気持ちを引き締め、パソコンの画面に向き直る。

朝一番で確認するのはメールボックスだ。昨夜のうちに取引先から届いていたメールに目を通し、返事が必要なものをピックアップする。次に今日のスケジュールを確認した。午前中は9時半からチームミーティングがあり、その後取引先との打ち合わせが一本。午後はデスクワーク中心だが、明日提出の企画書の準備も進めなければならない。頭の中で大まかな段取りを描きながら、健一さんは自分のノートに今日やるべきタスクを書き出していく。ふと、机上のスマートフォンに視線を落とすと、LINEの未読メッセージ通知が一件光っていることに気付いた。送信者は麻衣さんだ。開く前に少しだけ不安がよぎる——忘れ物でもしただろうか？急いで確認すると、「鍵忘れてるけど大丈夫？夕方までに帰れそうならポストに入れておくね。行ってらっしゃい！」というメッセージだった。健一さんは上着のポケットを探り、自宅の鍵がないことに気づいて思わず苦笑した。麻衣さんの気遣いに感謝しつつ、「ありがとう。帰りは遅くなるからポストに入れておいて助かります」と素早く返信する。家族の支えに改めて胸が温かくなるのを感じながら、画面を閉じて仕事モードに頭を切り替えた。

時計の針が9時半に近づき、オフィスも朝のざわめきから業務の空気へと移り変わっていく。健一さんは資料一式を持って会議室へ歩きながら、頭の中で今日のプレゼン内容を最終確認した。自分のデスクを離れる前にもう一度家族写真に目を留め、小さく頷く。「家族のためにも頑張ろう」。朝の温かなひとときでチャージしたエネルギーを胸に、健一さんの一日は本格的に動き出した。